青葉縁日へのリンク

ブログ動画投稿サイトなどのネットを使った個人の発信や、ミニコミフリーペーパーなどの盛り上がりが大きな注目を集める現在。

今回のレクチャーでは、昭和レトロ、フリーペーパーやミニコミ、そして都市の景観など、もの・紙・インターネットといったメディアに関わらず、個性的な収集活動と情報発信を行っている方をお招きし、「編集術」ともいうべきメディアの活用方法と、その可能性についてみなさんとともに考えたいと思います。

7/31(金)

8/1(土)

会場

桂英史(かつら えいし):コーディネーター

※聞き手として各回に参加します

桂英史
1959年生まれ。東京藝術大学大学院映像研究科准教授。専門は文化理論(メディア論およびアーカイヴ論)。主なプロジェクトとして、せんだいメディアテーク、川口メディアセブン、地域精神医療プロジェクト「epoch-making」、スターフライヤーデザインプロジェクトなど。主な著作には『インタラクティヴ・マインド』(NTT出版)、『東京ディズニーランドの神話学』(青弓社)、『人間交際術』(平凡社新書)などがある。

岩崎豪人(いわさき たけと)レクチャー1

「想い出とネットとビジネス」

岩崎豪人
1962年仙台市生まれ。京都大学大学院修了。現在は京都に在住し大学の非常勤講師をしながら、オンラインショップ「昭和レトロ倶楽部」(仙台市青葉区に店舗を持つ岩崎文具株式会社の運営)の作成、管理、商品仕入れを担当。昭和レトログッズ、レトロなおもちゃ、昭和レトロ食玩、懐かしアニメや特撮ものなど、復刻ものからデッドストック品まで懐かしい商品を品ぞろえし、手頃に「昭和レトロ」を楽しめる環境を提供している。
http://retro-club.com/

南陀楼綾繁(なんだろう あやしげ)レクチャー2

「ミニコミ・フリーペーパー“紙”だから表現できること」

南陀楼綾繁
1967年島根県出雲市生まれ。本名・河上進。ライター、編集者。古本、図書館、雑誌、ミニコミなど「本」に関するテーマを追いかけている。「不忍ブックストリートの一箱古本市」の発起人でもある。著書『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『路上派遊書日記』(右文書院)、編著『チェコのマッチラベル』(ピエブックス)、共著『ミニコミ魂』(晶文社)
http://d.hatena.ne.jp/kawasusu/

大山顕(おおやま けん)レクチャー3

「面白いのは、結局web1.0だった」

大山顕
1972年生まれ。工場、団地、ジャンクション、などドボクなものに夢中。ニフティの「デイリーポータルZ」での連載のほか、「工場鑑賞クルーズ」などさまざまな展覧会やトークショー、ツアーを主催。NHK-BS『熱中時間』のレギュラーも務める。主な著書は『工場萌え』『団地の見究』(共に東京書籍)、『ジャンクション』(メディアファクトリー)『高架下建築』(洋泉社)など。
http://danchidanchi.com/

レクチャー1「想い出とネットとビジネス」

岩崎豪人(いわさき たけと)

  • レクチャ−1の様子
  • レクチャ−1の様子

岩崎豪人氏は京都で大学の講師をしている傍ら、「昭和レトロ倶楽部」という昭和レトログッズ・レトロなおもちゃ・昭和レトロ食玩・懐かしアニメや特撮ものなどを販売するオンラインショップを経営している。もともと「昭和レトロ倶楽部」は京都で商品の仕入れを行い受注などを行っていたが、現在では、仕入の手配以外の大部分を岩崎氏の実家がある仙台で行っているという。

はじめに岩崎氏は現在のコンビニやインターネットなどの拡大による、昔ながらの文具店を取り巻く環境の変化と、その厳しさについて語られた。その変化は岩崎氏の実家である岩崎文具株式会社においても例外ではなく、それに伴い岩崎氏は経営を支えるために実家の文具店に関わるようになっていったという。

そのような中、岩崎氏はこれまでとは違った文具店を目指すため、文具だけではなく駄菓子や雑貨の販売も始めた。また、店舗だけでは売り上げが上がらないため、新たにオンラインショップを立ち上げ、ネット販売を本格化していった。岩崎氏はその際、昭和レトロに注目し、手頃な昭和レトロの多種多様な商品を取り扱うことで、見るだけでも楽しいショップを目指したと語った。またレクチャーは「昭和レトロ倶楽部」の実際のホームページを紹介しながら行われ、昭和レトロの情報局としての役割を果たしていることも示された。

「昭和レトロ倶楽部は、ツール的要素・懐かしいさ・おもちゃ感覚があわさって成功している」と桂氏は語る。現在、文具はインターネットで買う人も多く、文具屋に買いに行く人が減っている。そんな中で文具店に買いに行っていた、昔の時間感覚を取り戻そうという社会の動きから、昭和レトロ倶楽部は注目を浴びているのではないか、と桂氏は指摘した。さらには、現在の昭和レトロブームは、ウェブ上に蓄積された情報へのアクセスが容易となってきていることも起因し昭和レトロ倶楽部が注目を浴びているのではないかと分析された。

最後に岩崎氏は、今後、昭和レトロは日常的なものだけでなく、お祭りや映画制作などそれぞれ短期的に利用することでも、その価値が見出せると述べられた。そのように様々な活用方法がある岩崎氏の「昭和レトロ倶楽部」はまさに、今回のレクチャーの主題である、情報収集と発信の両方をうまく組み合わせたメディアの活用方法とその可能性を示すよい例であったといえる。

私自身、これまでミニコミ・フリーペーパーをあまり見たことがなかったが、今後書店や雑貨店に行った時には、ちょっとのぞいてみようと思う。

壹岐勇太郎(東北大学大学院情報科学研究科博士前期課程2年/smtインターンシップ生)

smtv-netでは短編をウェブで閲覧できます

レクチャー2「ミニコミ・フリーペーパー“紙”だから表現できること」

南陀楼綾繁(なんだろう あやしげ)

  • レクチャ−2の様子
  • レクチャ−2の様子

レクチャー冒頭で、南陀楼綾繁氏は、ミニコミを商業的ではなく、自主的に作成されて流通するメディアであると定義した。ミニコミはビジネス目的で出版される商業雑誌とは異なり、ある個人やグループがその主体や目的のために制作し発行するため、発行者の息づかいが聞こえるメディアであると語った。

近年、雑誌が売れなくなってきている中、ミニコミ・フリーペーパーはその種類が豊富で、読者も多い。もともとミニコミが出てきた60年代の主流は反体制的な様々運動から生まれた内容が大半だったのに対して、現在ではリトルマガジンやタウン誌など公的なものから私的なものへとその内容が変化しており、それが多くの読者を獲得している要因にもなっていると南陀楼氏は述べた。これほどの種類のミニコミが作成されるようになった背景には、コンピュータ化による印刷に対するハードルが下がったこともあるという。しかしそのような利便性は画一的な雑誌を多く生む温床にもなりうると指摘した。

現在、紙媒体はウェブ上へと形を変えてきているものも少なくない。インターネットが普及し始めた当初、紙媒体はすべてウェブ上に吸収されてしまうのではないかと言われていた。しかし実際にはウェブ上では表現することができないものが確認されただけで、結局はそのようなことにはならなかったと語った。さらに、紙媒体とコンピュータのデータではその保存性にも違いがあり、長期保存に適している紙媒体は今後もすべてがウェブに吸収されていくということにはならなさそうである。

桂氏は、現在の今世間一般で知られているミニコミ・フリーペーパーの多くは広告媒体としてのものであり、本来の意味でのミニコミ・フリーペーパーではないということをまず認識する必要があると指摘した。さらに桂氏はフリーペーパーのフリーには無料と自由の二つの意味があるのではないかと南陀楼氏に問い、これに対し南陀楼氏は、特に自由という意味において、どこにおいてもらうか、どこで読者に手に入れてもらうかを各人で決められる自由のあることが、非常に特徴的であると述べた。

レクチャーでは南陀楼氏が収集した個性的なミニコミ・フリーペーパーを示しながら行われ、観客の興味をひいていた。さらにレクチャーの最後には、客席から集められたミニコミ・フリーペーパー案に対し、南陀楼氏がコメントを行い、ユニークな案が数多く紹介された。

私自身、これまでミニコミ・フリーペーパーをあまり見たことがなかったが、今後書店や雑貨店に行った時には、ちょっとのぞいてみようと思う。

壹岐勇太郎(東北大学大学院情報科学研究科博士前期課程2年/smtインターンシップ生)

smtv-netでは短編をウェブで閲覧できます

レクチャー3「面白いのは、結局web1.0だった」

大山顕(おおやま けん)

  • レクチャ−3の様子
  • レクチャ−3の様子

大山氏は、これまでに団地や工場、ジャンクション、高架下建築、はたまたテトラポッドや看板まで、「ぐっとくるもの」を写真に撮り続け、ウェブ上で発表してきた。最近では、さらに活躍の場を広げており、テレビで大山さんの姿を見たという方も多いだろう。レクチャーの冒頭では、大山氏がこれまでに撮ってきた写真の数々が紹介され、その美しさと、軽妙なお話に、参加者はすっかり「大山顕的視点」に取り込まれていた。

自己紹介の後、話題はネットに。大山氏によると、日本の“趣味界”では自分自身でウェブサイトを運営している人が非常に多く、その証左に、大山氏の例も含め、近年注目されている“マニアックな趣味本”の多くはネット発で、さらにそれらのほとんどが、一方的な情報発信に徹しているという。web2.0時代の現在では、コミュニケーションのための仕組みを備えていない、一方的な情報発信のウェブサイトは蔑まれる傾向にあるが、面白い情報を発信するには、web1.0で十分だと大山氏は言い切る。

本などの紙媒体が、編集者やデザイナー、印刷会社など様々な工程を経てようやく情報発信できるようになるのに対して、ネットは、個人が誰の手も借りずにダイレクトに情報発信することができる。そういった意味で、ネットは一番「生身に近いメディア」だという。そのように考えると、生身の人間関係で誰とでも仲良くすることは不可能なのと同じように、ネット上でも好き嫌いはあるし、みんなから好かれることはまず無理であり、「PV(ページビュー)」が少ないと嘆いてみても、そもそも意味がない。これまで生身でやってきたことが、ネットを使うことで空間を超えてできるようになった、それだけで十分素晴らしいし、ネットの魅力もそこにあると考えるべきだという。大山氏の主張は非常にクリアだ。「ネットで“コミュニケーション”なんてしなくていい」、そして「ネットで人気を得ようと思ってはいけない」。

「Web2.0時代の~」という言葉に、漠然とした期待を持ってしまいがちな私たちに、大山氏は、地に足のついたネットとのつきあい方を気づかせてくれた。ネット上で地域を超えた同好の士の出会いが生まれ、さらにそこから、これまで「マニア」や「マイノリティ」として押しやられていたものの価値や面白さがより多くの人に認められる契機をつくり出すこと、そういう流れは、マスメディアを主軸としていた時代にはなかった、ある意味「健全な」情報の受け渡しの形ではないかと思う。

大山氏が最後に言った言葉が「発信したい情報を持たない人は、ネットが出来たからって無理に発信する必要はない。やりたい人がやれば良い」。コミュニケーションすること、それ自体が目的になりがちなネットの中で、常に情報を発信し続け、活動を広げてきた大山氏ならではのコメントではないかと感じた。

林朋子(せんだいメディアテーク 企画・活動支援室)

smtv-netでは短編をウェブで閲覧できます

まとめセッション

桂英史/岩崎豪人/南陀楼綾繁/大山顕

まとめの様子

大学講師をしながら稼業を手伝う岩崎氏、編集者でありながらミニコミ・フリーペーパーを発行する南陀桜氏、団地の写真を撮り続ける大山氏。一見ばらばらにみえるこの3人のゲストの共通点、それはプロとアマチュアの境界線上で活動しているということ。このセッションを聞きながら、それが「日常生活の編集術」なるものを考える際の重要なキーワードだったということに気づかされた。

桂氏は、この「日常生活の編集術」というテーマを次のように改題した。「日常生活」というのは誰もが持っている「個人性」のことで、いかに個人的なもので自分の過ごしている時間や空間を「ひとりよがり」に使うことができるかという問題。「編集術」とは、文字どおり、集めて・並べて・伝える、ということについて。そして、「編集」には「これまでなかったものや、知られていなかったものを集めて、伝える」という大前提があったはずが、近年では公共機関の収集・発信する情報がフラットになりつつあり、逆にネットで発信される「個人」の突出した情報を面白がる風潮が出来ているのではないかと現状を分析した。

現在、プロとアマチュアを区別すること自体が、あまり意味をなさなくなってきている。大山氏が、自身が行っていることを「自分一人が食べていけるくらいのマーケティング」というように、大山氏に限らずそのようなスモールビジネスの考え方が広まりつつある。スモールビジネスといった際、岩崎氏の事例のように、ネットはランニングコストが低く、フットワーク軽く情報発信ができるという利点が明確にあるが、出版においても、新しいスタイルの出版社が出てきていていると南陀桜氏が補足した。

以前は、書籍は2-3,000部出版し、販売し続けないと採算があわないとされてきたが、現在では少部出版も簡易・安価になり、ネットを活用し、取り次ぎを介さず数百店舗の特約店に流通させるなど、無駄を排した販路を確保している小規模出版社も出てきているという。

「ひとりよがり」の部分を大切にして発信される情報は、「マス」や「プロ」から発信される情報を超える価値を持ち得るし、ビジネスにもなり得る。これは、現在好きなことを続けたいと思っている人にとって、大きな励みになる言葉ではないだろうか。ネットか紙か、という二項対立ではなく、どちらを選択するにしても欠くことのできないこと、「ひとりよがり」のオリジナルな情報を発信することの大切さを確認したセッションとなった。

林朋子(せんだいメディアテーク 企画・活動支援室)

smtv-netでは短編をウェブで閲覧できます

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